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第443話 波紋 8-2
「あ、起きた」
「え? 神楽、坂?」
驚いて顔を上げれば、こちらの顔を覗き込むように身を屈めた神楽坂と視線があった。置かれている状況が飲み込めず瞬きを繰り返す俺を、神楽坂はどこか心配げな面持ちで見つめている。
「およ、藤様まだ寝ぼけてんの? 昼飯食わずに寝てるから腹減り過ぎて頭に糖分足りてないんじゃない?」
「……あ、夢か」
ぼんやりする頭を抱え足元に視線を落とすと、ふっと肩の力が抜けた。
「なに、なんか怖い夢でも見た? 俺ゾンビとか出てくる夢が超怖い。ほい、これ」
「ああ」
笑いながら傍から離れていくと、神楽坂は振り向きざまにペットボトルを放って寄越した。ひんやりとしたそれを受け取り、改めて見回した場所は実行委員の休憩室だった。
室内に俺と神楽坂以外はいなく、日当たりのあまりよくない部屋は薄暗さも相まってしんとしていた。
「なにか、言ってたか」
「……いーや、なんにも。でもちょっとうなされてたから心配になって起こしたんだけど、まずかった?」
「いや、助かった」
あれから繰り返し夢に見る。そして最後は決まって、彼が俺から離れ二度と手が届かなくなってしまう――そんな結末だ。
目が覚めるたび、彼に会いたくなる。彼の声が聞きたくなる。でももしものことを考えるとそれさえできない。
「あ、藤堂。携帯の電源入ってる?」
「え?」
ぽつりと呟かれた神楽坂の声で、いつの間にかまた自分が俯いていたことに気づく。慌てて顔を上げれば、離れた向かい側のパイプ椅子に腰かけ、神楽坂がこちらを見ながら首を傾げていた。
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