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第444話 波紋 8-3

「携帯」 「あ、悪い。充電切れてる」 「ふーん、そっか」  本当はあれから電源を入れていなければ、充電もしていない。 「鳥羽っちが繋がんないってぼやいてたから、昼休憩が終わったら行ってやって」 「ああ、わかった」  川端と俺の母親の情報を仕入れてくると言っていたが、なにかわかったんだろうか。とはいえ、わかったところでなにができるのかいまは検討もつかない。とりあえず鳥羽の話を聞いてみるしかないだろう。 「藤堂、顔色悪いけど大丈夫?」 「大したことない」 「……大したことないって、ちょっ」  慌てたような神楽坂の声が耳に届くが、腰かけていた椅子から立ち上がった瞬間、目の前が真っ白になった。ふっと一瞬だけ周りの音が遠くなった気がする。 「こういうの大したことないって言わないから、ご飯食べてる? ちゃんと寝てんの?」 「悪い」  あの日から眠れずにいる。夢で何度も目が覚めて、現実と夢がわからなくなりそうになる。たとえ夢でも彼がいなくなるのが怖くて、眠るのが怖くなった。  とっさに駆け寄ってきた神楽坂の肩に手をつくと、そのまま支えるように抱きかかえられる。 「謝る前にご飯食べて、しっかり寝ろよな。やっぱこれ飲んどけ」 「……どうしたんだ、これ」  目の前に差し出された小さな茶色い小瓶。それはコンビニなどでよく売っている栄養ドリンクだった。 「三島から藤堂に差し入れ」 「弥彦が?」

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