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第445話 波紋 8-4
「そ、午前終わったあと、帰り際の三島に会ってさ。朝から調子悪そうにしてるから渡してくれって言われた」
「そうか、わざわざ悪いな」
直接言ってくることは少ないが、それでもいつも気にかけてくれているのはなんとなくわかっていた。こうして目に見えるものを寄越すということは、弥彦から見て俺の状態はよくないのだろう。
「もう離していいぞ」
肩に預けていた手を下ろし身体を引くが、なぜか先ほどよりもしっかりと背中を支えられた。
「いや、一回座っとこ? 絶対どっかでガタくるから。俺いま、鳥羽っち呼んでくるし」
「そこまでしなくても平気だ」
ぐいぐいと力任せに押されて身体がよろめくが、神楽坂は戸惑う俺などお構いなしで、なんとか俺を椅子に座らせようとしているようだ。
「俺はいま学んだから、藤堂の大したことないと平気は大丈夫じゃないって」
「は?」
「三島がおかんみたいに心配するのがなんかわかるわ。自分の限界踏み越えていくとマジであとできつくなるって」
大げさなため息をつき、神楽坂は肩をすくめてこちらを見上げる。その呆れを含んだ表情に言葉が詰まった。
言いたいことも言っていることも理解はできる。それでもいまはなにかしていないと、余計なことばかり考えてますます自分を追い詰めそうになってしまう。
「器用そうに見えて案外不器用なんだな」
「悪かったな不器用で」
「ま、それはそれで人間らしくていいんじゃない?」
思わず顔をしかめた俺に神楽坂はにやりと笑い、なだめすかすみたいに人の肩を二度三度叩いてこちらに背を向けた。
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