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第450話 波紋 10-1

 長い付き合いがある明良のおかげで元々偏見はない。でも自分に向けられる感情にも気づかなかった僕が、なぜ柏木の感情に気づいたのだと聞かれれば。やはりそれは自分もいま想う相手が同性だから、他人の感情もまたそうであってもおかしくない。まるでそれが自然なことのようなそんな錯覚をし始めていたからだ。けれどそれを口にするわけにもいかず、こちらを窺い見る柏木の視線にしどろもどろになってしまった。 「まあ、深く追求はしませんけど」 「別に後ろ暗いことはないぞ」  確かに藤堂と自分の関係は言葉にすることをはばかられる。でも後ろ暗いとは思ったことはない。歳が離れていることはいまだ気になるけれど、いまどき歳の差があるカップルなど珍しくもなくなってきた。ただやはりもどかしいのは、人に容易く言えないということ。 「あんまりうろたえると、痛くもない腹探られますよ」 「ご忠告どうも」  現にあの明良でさえ、家族や身近な友人にも公言していない。知っているのは本当にひと握りの人間だ。言っていいことは特にないからなと苦笑いをしていたから、僕が考えている以上に悩みや苦労が多いのだろうと思う。いま目の前でなに食わぬ顔をして笑っている柏木も、藤堂や峰岸も、僕にはわからない色々な想いを抱えているのかもしれない。  誰かを好きだと思うその気持ちに、ほかの誰とも違いなどないのに。 「西岡先生?」 「いや……なんでもない」  急に黙り込んでしまい、柏木に怪訝な顔で見つめられてしまった。

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