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第451話 波紋 10-2
慌てて顔を左右に振れば、柏木は小さく息をついて肩をすくめた。
「あ、会長」
長い廊下を歩き、校舎の端に当たる角を右に曲がれば、ほんの少し開けた場所に出る。窓の多い廊下に比べてあまり陽射しが届かない、少し薄暗さを感じさせるそこが備品室の入り口だ。その入り口の前、蛍光灯でわずかに照らされたそこに峰岸は立っていた。峰岸の姿に柏木は驚きの声を上げる。
「なにしてるんですか」
驚きを隠さぬまま足早に近づく柏木に、僕をじっと見つめていた視線がふっとそらされた。
「お前、いいとこに来たな。これ持って行けよ」
薄く開いていた備品室の鉄扉を足で閉め、峰岸は自分の後ろにある台車を柏木のほうへと押し出した。
「なんだ、会長が取りに来てたなら俺が来なくてもよかったですね」
「あ? そこはわざわざ手間をかけさせてすみませんだろうが」
悪びれた様子もなく峰岸の傍らにあった台車に手を伸ばした柏木は、呆れた峰岸の声にも軽く肩をすくめるだけだった。パイプ椅子が数脚乗った台車が、柏木の手で重たげな鈍い音を響かせ動き出す。
「行くなら行くって、声かけてくれればいいのに。無駄足になるところでしたよ」
「お前な」
歩き出した柏木に合わせ徐々に加速が増した台車は、甲高い悲鳴を上げ次第にそれを小さなうめき声に変えた。その音に峰岸のため息はかき消された。
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