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第456話 波紋 11-3
「なんだよ急に」
「いいから」
「……いい加減にしろよ!」
「え?」
急に声をひそめ慌てた様子を見せた峰岸に戸惑っていると、廊下の先、生徒玄関辺りから聞き覚えのある声が聞こえてきた。話し声というよりも怒鳴り声に近いその声に、僕は反射的に振り返った。
「行くな」
飛び出していきそうになった僕の身体を、峰岸が引き止める。前のめりになり生徒玄関の様子が視界に入るが、一瞬息が止まった気がした。生徒玄関にいた人物は二人。
「馬鹿」
「……悪い」
急激に早まる鼓動と共に冷や汗が吹き出した。いまは頭上から聞こえた峰岸のため息にすらほっとしてしまうほどだ。生徒玄関にいる一人、聞き覚えがある声の持ち主は間違えようもない藤堂だ。そして藤堂と向かい合いこちらに背を向けているもう一人の人物、それは藤堂の母親だった。
昼休憩が始まったばかりの特別教室で、その人が藤堂の母親だと鳥羽が教えてくれた。その一見した容姿はあまり藤堂とは似ていなく、言われなければ気づかなかっただろうと思う。
彼女はすらりとした体型によく似合う、ダークグリーンのタイトなワンピースを身にまとっていた。肩甲骨辺りまで伸びた緩く波打つライトブラウンの髪をかき上げる横顔は涼しげで、どこか冷ややかさも感じさせた。けれどひとたび笑みを浮かべると、その印象はガラリと変わる。
光を多く含む黒目がちな目を細め、色鮮やかに染められたふっくらとした唇が弧を描くと、思わず見惚れてしまいそうになるほどの艶やかさを見せるのだ。
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