459 / 1096
第459話 波紋 11-6
「あれも嫌これも嫌、あなたそればかりね」
気だるそうな声音で、彼女は藤堂の言葉に長いため息を吐き出す。
「優哉、あなた……大事なものがあるんでしょう?」
まるで駄々をこねる子供をさとすような、呆れを含んだ声音。言葉を詰まらせた藤堂に、叫び出したい衝動に駆られた。噛み締めた奥歯がギリリと音を立てる。いま藤堂がなにを盾に取られたかは容易に想像できた。こんなかたちで藤堂の枷になるなんて、自分の存在が心底嫌になった。
生きる道を自分で選ぶことができない、そんな我慢をさせたくはない。そう思っていたのに、いま藤堂が言葉を躊躇っているのはきっと自分のせいだ。
「センセは悪くない」
僕の目を覆っていた手が、なだめるみたいに頭を撫でた。でもそれがさらに悔しさを助長させる。いまこうしてただ立ち止まっているだけの自分が、見てるだけの自分がもどかしくて、苦しい。
「大人しくしていれば、なにもしないわよ」
脅迫めいた言葉で、藤堂は追いつめられたように一瞬顔を強ばらせた。さ迷った視線は伏せられじっと動かなくなる。
頷かないで欲しい、そう言葉にできたらどんなにいいだろう。
「……」
「じゃあ、決まりね」
俯き唇を噛んだ藤堂の表情に、彼女は勝ち誇った満足げな笑みを浮かべた。握りしめられた藤堂の拳が微かに震える。
ともだちにシェアしよう!