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第460話 波紋 12-1
藤堂の自由を奪うために、僕は彼の傍にいるわけじゃない。一緒にいることで少しでも藤堂の歩く道が明るくなればいい、そう思っていた。だからこんなことは、望んでいなかった。
ひどく喉が熱くなった。吐き出しそうになる言葉を押しとどめるように、僕は自分の口を両手で塞いだ。いまここで声を上げることは、藤堂の我慢も想いもすべて無にすることになる。自分の無力さがたまらなく悔しい。
静まり返った空間に、来客用のスリッパが床を打つ音が響く。それは徐々にこちらへ近づいてきた。その音にいち早く気づいた峰岸は、素早く僕の身体を引き寄せ階段下に身を隠した。
「なんですって?」
けれどその音は僕らの予想に反し、こちらへ来る前に止まった。足音の代わりに、苛立ちを含んだ声が響いた。
「勝手に決めるなと言ったんだ」
そして間を置かず、藤堂の声が聞こえた。場所を移動してしまったため、藤堂たちの様子を覗い見ることができなくなった。ほんの少し近くなった声と、藤堂の声に僕は耳を澄ました。
「それは、どういう意味かしら」
「俺はあんたの望むようには生きない」
聞き取りにくかった藤堂の声が、今度ははっきりと聞こえた。止まってしまいそうなほど痛くて苦しかった心臓が、躊躇いのないその声に強ばりを解く。僕はゆっくりと息を吸い込んだ。
「本気で言ってるの?」
先ほどまでとは違う、戸惑いを含んだ声で彼女は藤堂に問いかける。
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