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第462話 波紋 12-3
息が上がって苦しい。藤堂の腕を握りしめたまま、僕は落ち着かない呼吸を整えようと俯き強く瞼を閉じた。
「どうして、泣いてるんですか」
「泣いてない」
「そんな見え透いた嘘をついてどうするんですか」
頬にぬくもりを感じさらに強く目をつむると、藤堂の指先がそっと僕の瞼をなぞった。目尻から溢れ睫に溜まった涙、それをやんわりと拭う藤堂の優しい手に、僕の心臓は落ち着くどころかさらに動きを速める。こうして触れられるのが、随分と久しぶりな気がした。でも、実際は指折り数えられるほど、たった数日のことだ。
「俺はあなたを泣かせてばかりですね」
「いいんだ、これは」
いまこんなにも涙が出るのは、先ほどまでの悔しさや苦しさのせいなんかじゃない。藤堂の声が聞けて、触れることができて、安心をしたからだ。こうしてまた言葉を交わし、傍にいられることが僕は嬉しくて、幸せで仕方がないのだ。
いつものように困った顔で笑って、藤堂が僕の髪を梳いて頭を撫でる。そのなに気ない表情や仕草を見るだけで、いつの間にか強ばっていた肩の力が抜けた。なにかしてやりたいといつもそう思うのに、気づけば自分が藤堂の想いに救われている。そしてどうしようもない自分にへこんでしまうのだが、藤堂が笑みを浮かべるたびにそんな気持ちはいつしか忘れてしまう。
「おい、お前ら」
二人でしばらく顔を見合わせながら笑っていると、急に背後から声をかけられた。
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