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第463話 波紋 12-4

 突然のことに肩が大きく跳ね上がる。とっさに藤堂から手を離し後ろに下がると、背後から伸びてきた手に腕を掴まれた。  慌てて後ろを振り返れば、峰岸が眉間にしわを寄せて立っていた。 「いちゃつくなら人目のつかないとこでしろよ」 「別にいちゃついてなんか、ない」  盛大に吐き出された峰岸のため息に反論すると、額を手のひらで叩かれる。しかもそれは一度や二度ではなく、何度も嫌がらせのように繰り返された。 「地味に痛いからやめろ」 「まったく、さっきまでの我慢はどこにやった」 「なにがだよ」  額を叩くのをやめたかと思えば、その手は僕の頬を引き伸ばすようにつまむ。 「幸せオーラがだだ漏れだ」 「そんなことは」 「ない、とは言わせねぇ」  峰岸の言葉で火がついたように顔が熱くなった。それを誤魔化すように頬をつまむ手を払い俯くと、再び大仰なため息が吐き出され頭を撫でられた。 「お前もこんなとこで甘やかしてんなよ」 「いたのか」 「あ? さっきから目が合ってるくせに、よく言うぜ」  機嫌を損なっていることを隠そうともしない藤堂の態度に、峰岸は一瞬目を丸くしたが、それをすぐに呆れた表情に変え肩をすくめた。  一見するとそれは険悪なやりとりに見えるが、お互い気心が知れているからこそなのだろう。明らかに不機嫌ではあるが、藤堂が本気で怒っている様子はない。

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