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第465話 波紋 12-6

「おい、十分、いや十五分やるから、いちゃつくならここでやれ」 「え? うわっ、峰岸っ」  振り返り藤堂に声をかけたかと思えば、突然峰岸は僕を資料室の中に放り込んだ。僕はその勢いのまま前のめりに足を踏み出し、数歩室内で進んでからようやく踏みとどまった。 「佐樹さんっ」  峰岸の様子を後ろで見ていた藤堂が、慌てた様子で駆け寄ってきた。そして入り口に姿を見せた途端、僕のように前のめりに傾いた。一瞬のことで、向かい合った僕たちはお互い状況が飲み込めずにいた。 「あとは好きにしろ」  どうやら峰岸が藤堂の背中を突き飛ばしたようだ。目を細め、口元を緩める峰岸の表情からそれは推測できた。けれど相変わらず言葉の意味が理解できなかった。二人で顔を見合わせていると、藤堂の背後で戸が勢いよく閉まった。 「おい、峰岸」  戸の向こうにいる峰岸に声をかけるが、返事をしない。微かに聞こえた音に気がつき、急いで戸を引くと、ガタガタと揺れるばかりでそれが開くことはなかった。 「なに鍵かけてるんだよ、ここは内から開かないんだぞ」 「だから十五分やるって言ってるだろ」 「は?」  だから、の意味がわからない。 「時間が来たら嫌でも開けてやるよ」  戸を叩く僕に、峰岸はのんびりとした声で返事をする。本気で十五分経たないと開けないつもりだ。

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