465 / 1096
第465話 波紋 12-6
「おい、十分、いや十五分やるから、いちゃつくならここでやれ」
「え? うわっ、峰岸っ」
振り返り藤堂に声をかけたかと思えば、突然峰岸は僕を資料室の中に放り込んだ。僕はその勢いのまま前のめりに足を踏み出し、数歩室内で進んでからようやく踏みとどまった。
「佐樹さんっ」
峰岸の様子を後ろで見ていた藤堂が、慌てた様子で駆け寄ってきた。そして入り口に姿を見せた途端、僕のように前のめりに傾いた。一瞬のことで、向かい合った僕たちはお互い状況が飲み込めずにいた。
「あとは好きにしろ」
どうやら峰岸が藤堂の背中を突き飛ばしたようだ。目を細め、口元を緩める峰岸の表情からそれは推測できた。けれど相変わらず言葉の意味が理解できなかった。二人で顔を見合わせていると、藤堂の背後で戸が勢いよく閉まった。
「おい、峰岸」
戸の向こうにいる峰岸に声をかけるが、返事をしない。微かに聞こえた音に気がつき、急いで戸を引くと、ガタガタと揺れるばかりでそれが開くことはなかった。
「なに鍵かけてるんだよ、ここは内から開かないんだぞ」
「だから十五分やるって言ってるだろ」
「は?」
だから、の意味がわからない。
「時間が来たら嫌でも開けてやるよ」
戸を叩く僕に、峰岸はのんびりとした声で返事をする。本気で十五分経たないと開けないつもりだ。
ともだちにシェアしよう!