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第466話 波紋 13-1
扉の向こうに感じていた気配が遠ざかっていく。去っていった様子はないので、そんなに遠くへ行っていないのだろうが、こちらの呼びかけには応えなくなった。相変わらず扉はガタガタと音を立てるばかりで開きそうにもない。室内は薄暗く、どこになにがあるのかもわからなかった。
このままでは埒があかないので、室内灯のスイッチを探して戸に近い壁を手探ってみる。けれどそれはちっとも当たらない。確か棚の少し後ろへ隠れていた気がするのだが、いざという時、人間の記憶は曖昧で当てにならないものだ。これはもう暗闇に目が慣れるのを待つしかない。
「佐樹さん」
「ん?」
背後にいる藤堂の気配が声と共に近づく。その呼びかけに応えるため振り向こうとしたが、後ろから伸びてきた腕に抱きしめられてそれは叶わなかった。
「少しこのままで、いいですか」
そう言って腕に力を込める藤堂に返事をしかけて、僕はそれをやめた。なぜかいまはなにも語ってくれるなと、背中から感じるぬくもりに言われたような気がした。本当は一体なにがどうなっているのか、藤堂に聞きたいことは山ほどあった。
でも自分自身の心の内をカタチにすることが藤堂は苦手なのだと思う。そんな時はじっくりと頭の中で考えて、それからゆっくりと言葉にしていく。けれど時として、その想いはカタチをなさずに押し込まれることもある。
そんな不器用な藤堂を愛おしく思うが、それと共に寂しくも思う。
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