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第468話 波紋 13-3

 自分の人生を自分で選び進むことが間違いであるはずがない。 「間違ってないよ」  でもいまはそんな怒りよりもずっと、安堵の気持ちが強く心に残った。あのまま受け入れてしまうようなことにならなくて、本当によかったと思う。 「大丈夫だ」  二人のあいだでどんなやり取りがあったのか、それは想像するだけではやはりわからないことが多い。だからこれは僕の感情的な意見だ。多分きっと想像する通り、母親からの要求は藤堂にとっていいことではないのだろう。だとしたらこれは間違った選択じゃない。 「でも、もしかしたら佐樹さんに」 「僕は後悔しない」  言い淀む藤堂の声を僕は遮った。いまだ逡巡する藤堂の気持ちはわかる。もしことが公になれば、僕の立場は明らかに危ういだろう。でもそれを恐れて藤堂の一生が閉ざされてしまうことになるのは、絶対に嫌だ。 「俺の力の及ばないところで、なにが起きるか、あなたにどれだけ迷惑がかかるかもわからない」 「それでも、僕はお前と一緒にいることを後悔したりはしないよ」  自分の未来と愛する人――それは天秤にかけられる軽いものではない。いまはどちらかを選ばなくてはならないのかもしれない。でも僕はどちらも諦めたくはない。だから最後の最後まで足掻いて、相手がまいったと手を上げるまでしつこく粘ってみせる。 「もしもの時は一緒に考えよう。だから、一人で抱え込むな。僕はずっとお前の傍にいるから」

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