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第470話 波紋 13-5
「お前になにがしてやれるのか、いまの僕にはまだわからないけど」
不安がないと言えば嘘になる。怖くはないのかと問われれば怖いと答えてしまうだろう。
「それでもお前を支えたいし、守りたいと思うよ」
平凡で、無力な僕ができることなんてたかが知れている。けれどそれをわかっていても、失いたくないものがあるのだと、いまの僕は知ってしまった。
「佐樹さん」
いつの間にか自分の手を見つめ俯いていた僕を、呼び戻す藤堂の声にふっと我に返った。
「ありがとう」
ゆっくりと持ち上がった藤堂の手は、僕と同じ形を作り差し出した僕の小指に強く絡みついた。小さなつなぎ目から微笑んだ藤堂の気持ちが伝わるようで、込み上がる感情にまた泣きそうになる。
溢れ出しかけた僕の涙を押し止めるように、藤堂の唇がきつく噛んだ僕の唇に重なる。けれど言葉以上に優しいそのぬくもりは、ますます僕の涙腺を緩めていく。
「ごめん」
「どうして謝るんですか」
「泣いてばっかりで強くなれなくて」
僕はこんなにすぐ泣くような人間じゃなかった。こんなにも我がままに誰かを想える人間じゃなかった。だからこれから先、これ以上に想える相手など見つからないだろうと、そう思うと少し怖くもなった。
「でもお前ことが好きで、仕方ないよ」
こんな言葉だけでは、伝えきれないほどの愛おしさが胸を締めつける。でもそんな痛みも不安も包み込むように抱きしめられた。
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