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第471話 波紋 13-6
「ごめんな、僕が泣いていたらお前が泣けない」
「いいんです。俺の代わりに、佐樹さんが泣いてくれるから」
優しく髪を梳いて囁かれたその言葉がひときわ強く胸の奥で響いた。僕が涙を流す分だけ、不器用で泣けない藤堂の心が洗われているのなら、救われる気がする。
「佐樹さんが傍にいてくれるようになって、俺は少し変わった気がします。いままで平気だったものに翻弄されたり悩んだりして、なんだか弱くなったような気もするけど、多分そうじゃなくて、自分の弱さに気づきました。大袈裟かもしれないけど、あなたといると、本当に生きててよかったって思えるんですよ」
生きててよかった。そう思うのは僕も同じだ。傍にいることでお互い少しずつ気づき始めていたのかもしれない。自分が強い人間だなんて思ってはいなかったけれど、決して弱い人間ではないと思っていた。でも自分の中にある弱さは、肩肘を張って生きていくことに本当は疲れていた。
「そうか、よかった」
そっと持ち上げられた指の先に口づけを落とされて、少し心が軽くなった。
お互い弱いからこそ、支えあい寄り添っていける。二人なら一人でいるよりもずっと、強くいられる。
「あなたが傍にいてくれるなら、俺も絶対に諦めたりしない」
「ああ、約束だ」
僕と藤堂の二度目の約束。
あれから長く凍りついてさざ波も立たなかった僕たちの心は、お互いが触れあうたび小さな小さな波紋をいくつも描き始めていた。それは時として荒く乱れて揺れることもあるかもしれない。それでもこの繋いだ手を離さなければ、二人で乗り越えていけるような気がした。
[波紋/end]
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