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第474話 決別 1-3

「問題なくても話せ」  ノートに走らせていたシャープペンを止め、首を傾げる鳥羽に再びため息を落とす。そしてじっとこちらを見る鳥羽から逃れるように、頬杖をついて視線を外へと向けた。 「あなたのお母様が経営する会社、ここ数年だいぶ危ない状況みたいですわよ」 「へぇ」  鳥羽の言葉に興味の欠片も感じさせない、素っ気ない声が出た。正直それほど驚きはなかった。そんなことじゃないかと、どこかで思っていたのかもしれない。金回りが悪くなったから旦那の兄に取り入る真似をしたのだろう。よくこの数年、なにごともなく動いていたと感心するくらいだ。よほど下の人間ができていたんだろう。 「会社自体は悪くはないようですけど、経営者の手腕の問題かしら。数年前までいらした副社長が解任されてから、会社が傾いているようですわ」  数年前まで副社長についていたのは、いまはどこにいるかわからない、俺の血の繋がらない父親だ。平凡で、真面目だけが取り柄の人だった。 「気に入らない人間を切って捨てるような女王様だけで、会社が動くわけないだろう」 「頭の悪い人間ではないけれど、人望はあまりないようですわね」  馬鹿な崇拝者でない限り、あれに尊敬など持ちようがない。鳥羽の言葉に思わず笑ってしまった。でもあの時、佐樹さんと再会しなければ俺もあの女の歯車になっていたのかもしれない。逆らうこともなく、文句を言うこともなく、大学へ行って会社に入り、好きでもない女と結婚して、そのまま人生終わっていたのかもしれない。  それがそこそこの自由と引き換えの、楽な生き方だとあの時まで思っていた。

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