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第475話 決別 1-4

「でもしばらくはあなたに構ってもいられないでしょうから、そのあいだに卒業してしまえれば一番楽ですわね」 「は?」 「ですから、会社自体は悪くないって言ったでしょう?」  言葉の意味がわからず鳥羽を振り返ると、至極楽しげな様子で満面の笑みを浮かべていた。お気に入りのおもちゃでも与えられたような、一見無邪気過ぎるほど無邪気な笑みだ。けれどその笑みに隠れたものに気づき、俺はあ然とした。 「まさか社員を買収して、会社ごと乗っ取るつもりか?」 「別に、どちらがいいか選ばせてあげただけですわ」 「天秤にかけるまでもないだろう」  決して小さな会社ではないが、鳥羽のところと比べたら格が違い過ぎる。そんなところから餌をぶら下げられて飛びつかない奴がいるだろうか。いや、多少条件が悪くなっても、独裁者にいつ首を切られるかとびくつきながら働くより、その元凶がいなくなってくれたほうが何百倍もマシだ。  いまは鳥羽のところから圧力をかけられて、俺などに構っている場合ではないということか。このまま本当に時間が過ぎてくれればいいが、逆効果にならないことだけを祈るばかりだ。 「やることが大き過ぎるんだよ」 「社会勉強ですわ」 「結局、お前の父親はお前に甘過ぎる」  呆れて苦笑いをした俺に、鳥羽はアイスカフェオレを飲みながら笑みを深くするだけだった。会社の一つ二つなど、本当におもちゃのようなものなのだろう。そう思うと俺の悩みがあまりにもちっぽけに思えて、なんだか馬鹿馬鹿しくなった。 「あら?」  痛んできた頭を抑えていると、鳥羽が顔を上げて目を丸くした。

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