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第479話 決別 2-4

 感情的になっていた一時のことかもしれないが、あれがこいつの根っこにある本音だったんだろう。 「お前に、それを聞かれるとは思わなかったわ」  少し眉尻を下げて小さく笑うと、峰岸は肩をすくめた。 「……好き、だな。ってか好きになんだろ、あの人の傍にいたら。どうしようもないくらい可愛くて仕方ない」  躊躇う表情を見せたが、俺の視線に諦めがついたのか、峰岸はため息と一緒に本音を吐き出した。そしてほんの少し左右に泳いだ目を伏せ、動揺を誤魔化すように前髪をかき上げる。 「けどもう、接点なくなったしなぁ」 「それだけで諦めるような男だったか、お前」  確かに創立祭も終わって急速に二人の接点はなくなるだろう。それでも誰だって諦めるタイミングがなければ、そう簡単に相手を忘れられるものではない。俺も人のことを言えない相当諦めの悪い男だ――だからその気持ちはわかる。 「そういや俺、まだお前に振られてもないんだけど」 「そんなに何度も振られたいのか」  にやりと笑ったその顔に目を細めれば、ふっと視線をそらし首を傾げて考える素振りをする。 「いや、やめとくわ。お前とはいい思い出にしとく」 「は? 思い出にしなくていい。潔く振られろ」 「やだ、やっぱお前のことも好きだわ」  腹を抱えて笑いだした峰岸の声に、周りの無遠慮な視線がこちらを振り返った。  いつもの調子に戻ったこいつのせいで、どっと疲れが押し寄せた。通り抜けるのを邪魔する身体を無理やり押し退けカフェを出ると、沿線の違う峰岸を俺はさっさと巻いてしまおうと改札を抜けた。後ろをのらりくらりとついて来ていた峰岸は、そんな俺の行動に肩をすくめてひらひらと手を振った。

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