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第485話 決別 3-6

「兄ちゃんご飯まだ? 優兄、ご飯終わったら勉強教えてよ」  制服から着替え、グリーンのボーダーシャツにデニムというラフな服装に変わった希一が、バタバタと足音を立てて階段を駆け降りてきた。そして教科書とノートを片手に俺の顔を覗き込んだ。 「働かざる者食うべからずだぞ! 食べたきゃさっさとこっち手伝いなさい。それと勉強はあとで兄ちゃんが見てやるから。こっちはテスト期間中なんだからな」 「えーっ、なんで! 優兄のほうが頭いいじゃん」  眉間にしわを寄せて目を細めた弥彦に、希一はムッと口を尖らせる。 「優兄、いいよね?」 「ああ、構わない」 「やったっ」  小さくガッツポーズした希一は機嫌よさげな笑みを浮かべ、さらに深いしわを眉間に刻んだ弥彦がいるキッチンへ軽い足取りで向かった。 「優哉、甘やかすなよ」 「テストは軽く復習すればいいくらいだから、別に大したことじゃない」 「あ、余裕発言。ムカつく」  口を曲げた弥彦を笑えば、俺たちの会話などそこまで理解していないだろうはずの貴穂が、膝の上で手を叩いてケラケラと笑い出す。 「優哉のとんかつ一番小さいのにしてやる」 「別にいいけど」 「可愛くないなぁ」  笑い声が賑やかで明るくていつでも温かい空間。それは自分の日常とは違い過ぎて、時々不安にもなる。ここに俺がいて本当にいいのだろうかとそう思ってしまう。でもそんな薄暗い俺の不安など気にも留めず、それどころか払拭するような眩しさで彼らはいつも俺に笑いかける。

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