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第487話 決別 4-2

 俺が貴穂を起こさぬよう和室へ連れて行けば、手慣れた様子で弥彦は貴穂を受け取り、奥の小さなベッドに寝かしつけた。 「貴穂はいくつになった?」 「ん? ああ、もう三歳だよ」 「その割にあんまり喋らないな」 「うーん、ちょっと言葉は遅いけど、言ってることは理解してるから大丈夫だろうって」 「ふぅん」  このくらいの小さな子供を見ると、あの人のことを思い出す。彼の子供が生きていれば、おそらく今頃は三歳か四歳くらいだ。  俺といることが本当にあの人にとって幸せなことなのか、現実を見るたびいまだに心が揺れてしまう。もしかしたら彼の手を握っていることに、いまだ後ろめたさがあるのかもしれない。自分の側へ彼を巻き込んでしまったことに、若干の後悔がある。あの時、あの場所で会わなければ、声をかけなければ、もっと違った道もあったんじゃないかと、そう思ってしまう。だからと言って、今更あの人を諦めるなんて絶対に無理だろう。でも気持ちが矛盾してばかりで、いつまで経ってもこの気持ちは解決できそうにない。彼の気持ちを信じていないわけではないのだが、順調にいっても、トラブルが起きても不安ばかりだ。  自分に自信がない。多分だからこそ、いまもこの先も同じことで何度も悩んでしまう。 「優哉、またなんかぐるぐるしてる?」 「え?」 「眉間にしわ寄せて、難しい顔してるからさ」  いつの間にか目の前に立っていた弥彦が、訝しげな顔をしてこちらをじっと見つめていた。

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