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第488話 決別 4-3

 その表情から推測するに思っているよりも長いこと、俺は考え込んでいたようだ。返す言葉が見つからず、思わず誤魔化すような笑みを浮かべてしまった。 「悩んでるばっかりでも解決しないことってあるよ」 「それは、わかってる」  ぐだぐだと悩んだところで自分の環境も、俺が男であることも、同性にしか興味がないことも変わらない。彼の恋愛対象が女性で、結婚していて、子供がいたことも、現実である限り変わりようがない。それに変わったところでどうなると言うんだ。俺はどうしたって彼を諦められないし、もしも万が一という不安が消えるわけじゃない。  悩んで落ち込んだところでどうにもならないんだ。これ以上考えても仕方がない。 「色々と考え過ぎて、余計に疲れてるんじゃないの?」 「疲れてる?」 「うん」  首を傾げた俺に、弥彦は肩をすくめてため息をついた。 「最近、おばさんとなにかあったんじゃないの? 創立祭の時におばさん見かけたよ。びっくりしちゃった。いままで学校行事になんて顔見せたことないのにさ。西やんのことでなにかあった?」 「気づいてたのか」  あまりにも的を射る弥彦の言葉に戸惑った。 「うん。でも優哉はなにも言わないし、聞いていいことかわからなかったから、聞かなかった」  余計な詮索はしない――弥彦は昔からそうだった。でもその分だけなにも言わずに俺の様子をずっと見ている。

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