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第490話 決別 4-5

 久しぶりにここへ来て、自分が俯いて目を背けていただけなんだということがよくわかった。多分ただ怖かったんだろうと思う。  子供の頃から俺の中で唯一だったこの温かい現実――無条件に受け入れてくれる家族。でもこの場所がなくなることが怖くて、自分は心のままに受け入れることができなかった。受け入れてから、放り出されるのが怖かった。そんなことはないとわかっていても、どうしても心を開ききれなくて、優しくされればされるほど疑心暗鬼になっていた。 「そっかよかった。ずっと優哉が不安そうにしてるのは気づいてたけど、俺たちがなにを言っても、きっとますます不安にさせるだけだってわかってたから。あっちゃんも俺も、それがずっと悲しかったし悔しかったんだ」 「悪かった」 「謝ることなんてないよ。優哉の気持ち考えたら、仕方ないことだと思う」  なにも知らない、気づかない素振りをしながら、やっぱり気づいていたんだ。お互いどれが正しい答えなのかわからなくて、随分と遠回りをした気がする。今日ここへ俺を呼んだのも、それに気づかせるためだったんだろうか。 「いまよりもっともっと、優哉が大切だって思えるものが増えればいいと思ってる。いままで我慢して手放してきたもの、これからたくさん掴まえていいんだよ」 「ああ」  弥彦がいまにも泣きそうな顔をして笑うので、つられて喉が熱くなった。いままで見えていなかったものに、見ようとしていなかったものに気づかされる。

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