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第492話 決別 5-1
最近は毎日があっという間に過ぎていく。創立祭のあとの期末テストも終わり、六月に入るとなにもかもが通常通りに動き始めた。もちろん藤堂との関係もいままで通りだ。途切れていた連絡もまたいつものように来るようになった。音信不通のあいだは、やはり携帯電話の電源が入っていなかったのだとあとから聞いた。その理由までは聞くことができなかったけれど、多分彼の母親に関係することなんだと思う。
その母親はというと、あれからなんのアクションもないと言う。静か過ぎると不気味だと言っていたが、なにもないのならないでそれに越したことはない。でもまあ、最低限の警戒は忘れずにいようとは思っている。万が一ということもあり得るし、いざという時にパニックを起こして失敗などしたくない。
「さっちゃーん、ご飯よ」
「あ、わかった。ちょっと待って」
リビングから聞こえてきた呼び声に、慌てて手元のキーを打ち送信ボタンを押した。送信完了の文字を目に留めて携帯電話を閉じると、僕は部屋の戸を引いた。
「電話でもしてた?」
「いや、してないから大丈夫」
全部が通常通りだと言ったが、実際はここだけまだ通常通りとはいかなかった。母の時子は姉の佳奈が出張からまだ戻らず、僕の家にいる。週末だけがいまだに元に戻らない。正直言うと藤堂が不足気味ないまの状況は辛いのだが、やはり母を一人にしておくのは心配だ。近所付き合いもあるから、そこまで過保護にならなくてもいいのかもしれないけれど。近所と言ってもすぐ隣に家があるわけではない。そこはもう田舎である所以だ。
「そういえば、優哉くんはいつ遊びに来てくれるの?」
「えっ?」
急に予想外の名前が出て、心臓が跳ねて変な汗をかいた。声が若干裏返った気がする。
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