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第494話 決別 5-3
自室に戻ると携帯電話が着信を知らせるランプを点灯させていた。飛びつくようにそれを開けば、予想通りの人物からメールを受信していた。
「二十三時か……あと、十分」
時計を確認してその時間を待つあいだ、そわそわと落ち着かなくて、たったの十分が随分と長いような気分になってしまう。ベッドの上で正座して待っている姿は実に情けない。電話一つでこんなにも気持ちがそぞろになるなんて、本当にいままでの自分では考えられないことだ。でもそんな自分が案外嫌いではないなと最近は思う。馬鹿みたいだと思うけれど、なんだか我ながら人間らしくていいんじゃないかと、そう思えるのだ。もはやこれは開き直りだろうか。
「よし、二十三時っ」
握りしめている携帯電話の時計が二十三時を示すと、それと同時に携帯電話の通話ボタンを押した。するとコール音が二度三度と耳元で響き、そして途切れた。
「もしもしっ」
前のめりな勢いで電話の向こうに声をかければ、微かに小さな笑い声が聞こえた。
「いま、笑っただろう」
「……すみません、あまりにも可愛かったので」
いまだ笑いを堪えているのか、聞こえてくる声がどこか震えている気がする。
「笑うなっ」
「すみません、でもやっぱり可愛い」
「うるさい、可愛くないっ」
確かにちょっと気合いが入り過ぎていた気はするが、そこまで笑われるとは思わなかった。笑い声が電話口から聞こえてくるのと比例して、じわじわと自分の顔が熱くなってくるのがわかる。
「あ、怒ってますか?」
「別に、怒ってない」
「本当に?」
耳元から聞こえてくるこちらを窺う声に、むずむずとした気分になる。
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