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第496話 決別 5-5
まだもう少しこうしていたい気持ちもあるけれど、あまり遅くなって藤堂に迷惑や負担をかけるのは忍びない。名残惜しいが、いかなる時も物事の限度を見極めるのも大事だ。
「あ、そうだ」
「なんですか?」
「ああ、うん」
重要な用事を思い出し思わず声が大きくなる。肝心な思いつきを言い忘れては意味がない。
「藤堂、バイトいま忙しい?」
「え? まあ、それなりに」
「じゃあ、休日に連休取るのは難しい?」
藤堂のバイト先に暇なんて言葉が存在しないことはわかっているから、ここで駄目なら思いつきは諦めるしかない。
「日曜日とは別に、土曜日もってことですよね?」
「そう」
普段の藤堂は水曜日と日曜日が休みという固定シフトになっている。稼ぎ時で忙しい休日をそう簡単に空けてもらえるとは、さすがに思ってはいなかったが――。
「多分できなくはないですよ。いつがいいんですか?」
「え?」
「もしかして、聞いてみただけですか?」
あっさりと返ってきた言葉に戸惑っていると、こちらを訝しむ声が聞こえてきた。
「あ、いや、ああ、うん。できれば今月がいいかなって思うけど、お前の都合に合わせる。ちょっと付き合って欲しいところがあって」
「……」
慌てて言葉を返せば、少し呆れたようなため息をつかれてしまった。
「本当にいつでもいいから」
いくら休みをもらえると言っても、さすがにそんなにすぐシフトの融通は利かないだろう。こちらの都合はどうとでも変更ができるし、先延びになってもまあいいかと悠長に考えていたら、また想像の斜め上をいく答えが返ってきた。
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