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第499話 決別 6-2
しかし反射的に立ち上がってしまい、前後の間合いも取れなかった僕は思いのほか近かった藤堂との距離に、あたふたと後ろへ下がろうとしてベンチに足を取られた。
「大丈夫ですか?」
受け身をとる余裕もなく、無防備なまま後ろへひっくり返りそうになった。そんな僕を藤堂はあ然としながら抱き止めた。
「だ、大丈夫だ」
「気をつけてください」
「ん、悪い」
苦笑いを浮かべる藤堂に気恥ずかしさが増して、顔が熱くなる。
悶々とした思考から現実に帰ると、目の前を走り抜ける電車の音がやけに耳に響く。ふと改めていま自分がいる場所を思い出した。
「なにを一人でぶつぶつ呟いてたんですか」
「あ、いや、なんでもない」
心配げな表情でこちらを覗き込む藤堂の視線から逃げると、ほんの少し眉をひそめて首を傾げられてしまった。でも本当のことを言えるわけもなく、誤魔化すように笑ったらため息交じりに頭を撫でられた。
「まあ今日、俺と出かけるのが憂鬱で、それでため息ついていた。ということでないならいいですよ」
「バカ、憂鬱なわけないだろ、楽しみにしてた……の、に」
あまりにも拗ねた言い方をするので、思わず言い返すように言葉が口をついて出る。けれど藤堂の浮かべた表情で、それは次第に尻すぼみに小さくなっていく。少しふて腐れた顔をしていた藤堂だったが、僕の言葉にゆるりと口角を上げた。子供みたいな無邪気さと、企みのある意地の悪さを含んだ目でこちらを見つめる。
「あ、えっと……ち、近い」
右往左往と視線を泳がせて、ふと我に返った僕は、自分がいまだ藤堂に抱きかかえられている状態であることに気がついた。
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