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第500話 決別 6-3
「駄目ですか?」
「駄目に、決まってる。ここ駅のホームだ」
間近に迫った藤堂の顔を押しのけ、身をよじって間合いを取ると、至極楽しげに微笑まれた。さすがにそれが悪戯なのか本気なのか真意を測りかねる。
とりあえず休日の朝で人が少ないとは言えども、黙っていても相変わらず藤堂は目立つ。いつまでもこんなことやっていると、初めて駅前で待ち合わせた時みたいに、このホームにいる人や電車に乗降する人たちの目をさらうことになる。本人にはあまり自覚がないようだけれど、いまもちらちらと向けられる視線が恥ずかしくて逃げ出したいくらいだ。
それにしてもここまで来たら、もう少しは自覚してもいい気がするのに、なんで藤堂はこんなに周りの視線に無関心なんだろうか。自分に、あまり興味がないから?
「うーん、知って欲しいような、そのままでいて欲しいような」
今日は少し昔の藤堂を思い出させる全体的にモノトーンな装い。贔屓目じゃなくても、さり気なくバッグを肩にかけてただ立っているだけなのに、ちょっと普通の人とは違うオーラがある気がする。それに加え眼鏡や髪型も普段とちょっと違うから、いつも学校で見せるきちりとした雰囲気がなくて、誰がどう見ても高校生には見えない。以前から思っていたけど、藤堂がモノトーンの服を着るといつも以上に大人っぽくてますます年齢不詳だ。
それといまの藤堂は視線も仕草も大人びていて、学校にいる時よりも肩の力が抜けている。多分きっと普段の藤堂よりも、こっちが藤堂らしい本来の姿なんだろう。とはいえ、確かに僕もいまの藤堂は好きだけど、こっちのほうがいつもより割り増しで男前度が上がるから、人の目が割り増し分と比例してたくさん集まるのが不満だ。
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