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第502話 決別 6-5

「……いえ、なんでもありません。そろそろ出発しましょう。お互い着いた時間が早いとはいえ、もう電車に乗って向かわないと新幹線に乗り遅れますよ」 「あ、ああ」  差し出された手を取り立ち上がると、僕は小さく息をついた藤堂をまじまじと見つめてしまった。けれど藤堂はそんな僕から視線をそらして、無言のままベンチに置いていた僕のボストンバッグを掴む。 「なぁ、藤堂」 「なんですか」  なにも言わずにさっさと背を向けて歩き出してしまった藤堂の背中を、慌てて追いかける。そしていつもより少し足早な様子に首を傾げてしまった。 「さっき僕はなにか変なこと言ったか?」  僕の声に振り返った藤堂は、じっとこちらを見てなにか言いたげに目を細める。けれどその目を見つめ返せば、肩をすくめてまた歩き出した。 「ちょっ、藤堂」  なにも言わずに背を向けられると、さすがに不安になる。追いすがるように藤堂の腕を引くと、思いっきり大きなため息をつかれた。 「なんか怒ってる?」 「怒ってませんよ」 「じゃあ」 「佐樹さん」 「ん?」  歩みを止めた藤堂はなぜかひどく困った顔をして振り返る。その顔に疑問符を浮かべてしまうが、彼は開きかけた口を引き結んだ。 「なんだ?」 「とりあえず、電車に乗るまで大人しくしていてください」 「えっ」 「いや、電車でも大人しくしていてください。じゃないと電車の中で悪戯しますよ」 「は? なに、なんでだ?」  冗談ともとれる発言だが、眉間にしわを寄せて難しい顔をしている藤堂からは、冗談と解釈するには難しいオーラが出ている。とりあえず頷いておかないといけない気がして、僕は何度も頭を縦に振った。

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