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第503話 決別 7-1
とりあえずよくわからないまま機嫌を損ねたり、怒らせたりするのは嫌なので、しばらく言われたとおりに大人しく黙って藤堂の横にいることにした。しかし電車に乗ってるあいだも終始無言が続き、新幹線に乗り換えする時に二言三言交わした程度で、あれからずっと視線も合わない気がする。
普段から二人でいても会話が多いわけではないが、いざ大人しくしていろと言われるとなんだかそわそわする。そうだ、そもそも普段は僕が一人で喋っていることが多いのだ。それなのに大人しくしていろと言われたら間が持たない。二人でいる時の藤堂はこちらが話しかければ話をしてくれるし、笑ってくれるし、沈黙で困ることはない。でも元々お喋りというわけではないので、じっと僕の話を聞いてくれていることのほうが多い。
このまま黙っていたら会話もせずに目的地に着いてしまいそうだ。でもやはり機嫌を損ねるのは嫌だ。
「けど、このままはさすがにちょっと寂しい」
隣で肘かけに頬杖をついている藤堂を盗み見た。うたた寝をしているのか目は閉じられ、こちらに気づいている様子はない。思わずじっと横顔を見つめてしまった。
「って、見過ぎだ」
自分の行動が恥ずかしくなり、気を紛らわそうと慌てて窓から外へ視線を向けた。するとふと右手に温かいものを感じた。
「別に、俺は怒ってませんよ」
「あっ、えっ、うん」
さり気なく右手に重ねられていた手と、こちらを見る藤堂の視線に気づくと、じわじわと顔が熱くなってきた。
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