505 / 1096
第505話 決別 7-3
自分でもこの状況がおかしいことぐらいわかっているのに。
思わず小さく唸って俯くと、藤堂は心配げな顔をしてこちらを覗き込もうとしてくる。その視線から逃れるように顔を背ければ、藤堂が後悔をして落ち込みだしたのが気配でわかる。そうすると僕が弱いのをわかってやっているんじゃないかと、そう疑いたくなるが、藤堂は案外そういうところでは嘘がつけないと言うか、やたらと素直だ。というよりも僕に対して従順な部分がある。それはそれでかなり優越なのだけれど、やはりこれには弱い。僕もさすがにこのままではいられない。
「別に、怒ってない」
握られていた手を握り返して、こちらをじっと見ている藤堂の目を見つめ返した。案の定不安そうな顔をしていて、でもそれが可愛くて仕方がない。先ほどまでのやりとりと逆転して少しおかしな気分だ。
でもこんな風にすぐ不安になるところも、昔から持っている心の傷なんだろうかと思うと、切ない気持ちになる。少しずつでいいから、それが癒やされてくれればいいと願うばかりだ。
「嫌じゃないぞ。ただ場所をわきまえてくれ。恥ずかしくていたたまれない」
「気をつけます」
「うん」
相変わらず藤堂は変化球のない直球だ。でもそれが自分にだけ向けられていると思えば、嫌なわけがない。普段は隙がないくらいクールなのに、僕の前では拗ねたり落ち込んだり、泣きそうな顔をしたり、至極嬉しそうな満面の笑みを向けてくれたりする。
ともだちにシェアしよう!