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第507話 決別 7-5

 その藤堂の表情の内側にあるものがさっぱりわからない。人の気持ちを読み取るのはやはり難しい。 「佐樹さんそんな顔しないで」  一人勝手に落ち込む僕の髪を藤堂は優しく撫でる。甘やかされてなだめすかされて、ますます藤堂に気持ちが寄りかかってしまいそうだ。 「色々と鈍くてごめん」 「いえ、大丈夫です。そういうところも佐樹さんらしくて好きです」 「もう、恥ずかしくて、やだ」  真顔で答えられて、今度は僕のほうが頭を抱えてしまった。このいちいち浮き上がってしまう気持ちは、本当にどうにかならないんだろうか。もう少し時間が経てば慣れるだろうか。  まあ、正直なんだかんだと付き合いだしてそんなに経ってないし、付き合い始めの浮かれた状態なのかもしれないけど。藤堂を見てるとやたらとドキドキしてしまう。多分、顔がすごく好みなんだろうな、というのはなんとなく気がついている。いや、もちろん顔だけじゃなくて声や性格も好きだけど――って、なに考えてんだ自分。 「佐樹さん、次ですよ」 「え? あ、ああ」  一人で悶々としていたら次の停車駅を案内するアナウンスが流れていた。 「藤堂、あのさ」 「なんですか?」 「なんで今日のことなにも聞かないんだ」  もう少しで目的地に着く。それと共にずっと引っかかっていたことが気になって仕方なくなってしまった。行き先だけは新幹線の切符を渡した時に教えたけれど、藤堂はそれ以上のことは言わせてくれなかった。

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