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第508話 決別 7-6

「……そうですね。もうすぐ着きますし、白状しますね」  荷物棚から二人分のバッグを下ろしながら、ふっと少し眉尻を下げて藤堂が笑う。言うのを躊躇っているようなその雰囲気に、なぜか胸がざわりとした。 「聞きたくなかったんです」 「え?」 「ギリギリまで、あの人のこともあの人の名前も、あなたの口から、聞きたくなかったんです」  呟くような小さな藤堂の声に泣きそうになった。やはり気づいてたんだ。これから何処へ行くのか、なにをするのか。 「十日はみのりさんの命日でしたよね」 「覚えて、たんだ」 「えぇ」  そういえば藤堂の実父も同じ日が命日だった。覚えていてもおかしくない。そんなことにも気づかなかったなんて僕は馬鹿だ。 「でも嫌だとは思っていないですよ。こうして俺を連れて行くってことは意味があるんでしょう?」 「うん」  ヤバイ、本気で泣きそうだ。藤堂の気持ちを考えていなかったわけじゃない。でもよくよく考えればいい気分ではないだろう。でも後悔しそうになる僕を、藤堂は優しい目でまっすぐと見つめてくれる。 「もう、昔のことは終わりにしたかったんだ」  全部、今日で終わりにして、これからはまっすぐに藤堂だけを追いかけていきたいと思っている。だから最後は一人じゃなくて、藤堂と一緒に行きたかった。

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