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第512話 決別 8-4

「そうだ、移動が長いと疲れるし、近いとこ取ったんだけど。温泉あるんだって」 「うーん、温泉ですか」  シティホテルでもよかったけど、どうせゆっくりするならと比較的部屋が広めの温泉旅館にしてみた。けれどまた藤堂の表情は苦いものになった。 「なに? 嫌い?」 「そういうわけじゃないんですけどね」  なにやら悩んでいる様子で眉間を指先で押さえるその姿に、僕の頭にはまた疑問符が浮かぶ。 「どういうわけ? あとで教えてくれるのか?」 「えっ?」 「だってお前、新幹線乗ってた時に、あとでって言った」  肩を跳ね上げてやたらと驚いた表情を浮かべる藤堂は、じっと訝しげに見つめる僕の視線に、なんとも表現しがたい苦笑いを浮かべた。 「あ、ああ、そういえば言いましたね」 「なんだその投げやりな感じ」 「まずは先を急ぎましょう」 「あ、はぐらかした」  急かすように僕の背を押して、タクシー乗り場まで足早に歩く藤堂に思わずため息をついてしまう。なにかこうよくわからないところでいつも言葉をはぐらかされる。もしかしたらただ単に僕が疎いだけなのかもしれないが、すっきりしなくて気持ち悪い。藤堂が困るようなことってなんだろうか。  僕が困ることはよくするくせに――いや、困ることはしていないか。ただ困るというより、恥ずかしかったり戸惑ったりするだけだ。ああ、モヤモヤする。

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