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第513話 決別 8-5
どうして僕はこんなにも鈍いのだろう。そしてどうして藤堂はすぐに曖昧に誤魔化したりするのだろう。少しずつ降り積もる感情に胸の内が複雑になってくる。自分の器の小ささと藤堂の澄ました横顔に少し苛立ちが募った。
「部屋の変更?」
宿に着くと受付の女性が慌てた様子で頭を下げてきた。
「はい、こちらの手違いでお客様にご案内するはずのお部屋が埋まってしまいまして、代わりのお部屋を用意させていただきました。もちろんお代はそのままで結構ですので」
しかし話を聞けば多少の手違いはあったものの、謝られるようなことではまったくない気がした。予約した部屋よりもいい部屋を用意してもらえるということだ。
「別に、構いませんよ」
「あ、ありがとうございます」
けれどいまちょっと腹の辺りでムカッとした。
にこやかに微笑んだ藤堂に、受付の女性が頬を染めたのを目ざとく見てしまった。よそ行きでもそんなに愛想よく笑わなくてもいいのにと、お門違いなヤキモチを妬いてしまう自分はやはり心が狭い。
「佐樹さん? どうしたんですか」
「なんでもない」
「そう、ですか? あ、霊園に行くのに、ここの前からバスが出ているそうですよ。ふた駅先だそうです」
あの時、子供じみた嫉妬だと藤堂は言っていたが、僕のはさらに子供だ。お気に入りのものに触れられるのも、欲しがられるのも我慢ならない。いまここが公衆の場でなければ、頭を抱えて大声で叫びたいくらいモヤモヤする。
藤堂の言葉はもはや頭に入ってこない。
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