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第514話 決別 8-6

「ほら佐樹さん、部屋広いですよ」 「んー、あっ」  一人モヤモヤして不機嫌な調子の僕を、藤堂はなだめるように促しながら、開錠した部屋の扉を開ける。気のない返事をしながら部屋に入ったものの、その予想外の広さに思わずテンションが上がってしまった。  どれだけ子供なんだ自分。 「よかった。機嫌、直ったみたいで」 「別に機嫌悪くは……って、ちょ」  背後の扉が閉まったと同時か、急に目の前に迫ってきた藤堂に戸惑う。驚いて下がろうとするもののこれ以上は行き場はない。伸ばされた腕に抱きすくめられて唇を塞がれた。今日何度か交わした触れるような優しいそれとは違う、深い口づけに思わず目の前の藤堂にしがみついてしまった。 「……ぅんっ」  髪を梳き、頬に触れる藤堂の指先に、心臓がうるさいくらいに激しく鼓動する。  ヤバイ、頭がぼーっとしてきた。気持ちはいいけどさすがに腰が抜けそうだ。離してくれと訴えるように慌てて藤堂の背中を叩けば、名残惜しそうに何度も唇を啄みながら藤堂の唇が離れていく。 「いきなり、びっくりした」 「ちょっとどうしても我慢できなくて、触りたくなって。ごめん」 「ばっ、馬鹿だろ。散々ここに来るまで」  あまりにも真顔で言うものだから、言葉が尻すぼみになっていく。しかも本気で本人は衝動的な行動だったのだろう。珍しく口調が敬語じゃなくて、思わず胸の辺りがキュンとしてしまった。  まったくこんな乙女っぽい自分は恥ずかしくて嫌なのに、どうにかなってしまいそうだ。

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