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第515話 決別 9-1

 バスに揺られて少し移動した先にある広い霊園は、郊外と言うこともありとても静かだ。  優しい風に吹かれてさわさわと揺れる木の枝と木の葉。その下では綺麗に整備された石畳が長く続く。久しぶりに来たこの場所は当たり前だがなにも変わらなくて、あれからどれくらい時間が過ぎたのか、時々わからなくなる。でも今日はいつもとは違う。一人ではないということが、これほどまでに気持ちの変化をもたらすのかと思うほど、気持ちは穏やかだった。  でも墓石の前に来ると自然と背筋が伸びる。命日に彼女のご両親が来ているのは間違いないので、お墓は綺麗なものだったけれど。やはり気持ち的にはお墓とその周りを簡単にでも掃除をして、礼は尽くしたいと思った。 「そういえば、佐樹さんのところに入ったわけじゃないんですね」  花を生けている僕の後ろで藤堂がぽつりと呟いた。 「ああ、向こうのご両親のたっての願いで実家のお墓に入れたんだ。それに僕もまだ若かったし、先があるだろうから次の奥さんが可哀想だってさ」 「なるほど」 「あ、次はないぞ」  また独り言みたいに小さく呟く藤堂を慌てて振り返れば、少し驚いた顔をされた。けれど僕の顔を見た藤堂はゆるりと口角を上げて目を細めると、満面の笑みを浮かべる。 「大丈夫です。次には渡しません」 「……」  至極機嫌のよさげな藤堂の顔は、半分は間違いなく取り乱した僕へのからかいだ。でもそれをわかっていても、そんなことを言われてはさらに取り乱してしまう。

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