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第516話 決別 9-2

 手にした線香をバラバラと落としてしまい、あたふたしていると藤堂の手が両肩に触れた。 「ほら、佐樹さん落ち着いて」 「お前が悪い」  隣にしゃがみ、落ちた線香を拾い集める藤堂の横顔を睨んだら、ふいに振り返った顔がこちらに近づいた。 「ストッ……プ」  まさかこんな場所でされるとは思わなかった。触れられた唇を手のひらで覆い俯いたら、肩を抱き寄せられた。そして傾いた藤堂の頭が僕の肩に寄りかかる。寄り添うその微かな重みがひどく温かいと感じた。 「お前は今日、何回目だと」 「佐樹さん」  照れ隠しに藤堂の身体を押し戻そうとしたが、さらに強く肩を抱きしめられそれは適わなかった。こちらを見る目に言葉も途切れていく。 「好きだよ」  耳元で優しい声が愛を囁きかける。でもその言葉に僕は返す言葉をすぐに見つけることができなかった。嬉しくて幸せで堪らないのに、声が出なかった。 「……」 「俺は佐樹さんを置いていなくなったりしないから、これからもずっとこうして傍にいさせてください」  こんな時にそんなことを言われたら、どうしたらいいかわからなくなる。ここに来るたびに寂しくて切なくて、後悔ばかりで。やりきれない気持ちばかりが膨れ上がって、時間が巻き戻ったらどれほどいいか、自分が代わりにいなくなってしまえばどれほどよかったかと、そればかり考えていた。  それなのにこんなにも容易く、僕の欲しかった言葉をくれる藤堂の存在が大きくて、ずっとぐるぐると悩み続けて、鬱屈としていたはずの感情がいとも簡単に晴れていく。

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