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第517話 決別 9-3
喉が詰まってひどく熱い。堪えようとするほどに込み上がってくる感情に涙が溢れた。ボロボロとこぼれ落ちる涙を拭いもせずに、僕は馬鹿みたいに何度も頷いた。
「うん、傍にいて……お願いだから、どこにも、行かないでくれ」
これからもずっと傍にいたい。愛した人と離ればなれになって会えなくなったりするのはもう嫌だ。二度とそんな想いはしたくない。
「俺はずっとここにいるから」
優しい囁きに止まらない涙。藤堂の首元へ腕を伸ばして抱きつけば、そっと背を抱きしめ返してくれた。寄せられた頬が僕の涙で濡れる。それでも決して離さずにいてくれる力強い腕にひどく安堵した。
「もう僕には、お前しかいない」
これはもしかしたら藤堂を縛り付ける言葉なのかもしれない。なにごともなく平凡に生きて人生を歩いていったら、先にいなくなるのは僕のほうだ。それ以前に、藤堂はまだ若い。これからの道の妨げに、僕はなってしまったりしないだろうか。そんな迷いも確かにある。
でもそんな先を怖がって藤堂を手放したくない。こんなに好きなのに、こんなに誰かを好きだと思えたのは初めてなのに、この感情を押し殺してしまいたくはない。
「俺以外は、絶対に許さないから」
「藤堂?」
涙で濡れた僕の頬やまつげを拭う指先は優しいのに、その言葉はいままでで一番力強い。
「ずっと俺だけを見ていて、ほかのものになんて目移りしたら許さない」
そっと寄せられた藤堂の額がコツンと僕の額に触れる。間近に迫った視線はまっすぐと僕の目を捉えて離さない。
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