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第518話 決別 10-1

 いつもよりずっと強いその視線と、穏やかで柔らかな雰囲気を脱ぎ去ったかのような、普段とは少し違う藤堂に鼓動が早くなる。  ああ、でもこれが本当の藤堂だ。いつものように優しく甘く抱きしめられるのも好きだけれど、この藤堂もやはり僕は好きだ。普段も気など使わず、ありのままでいてくれて構わないと思っているのだけれど。藤堂の中でなにか線引きでもあるのだろうか。 「佐樹さん。大事なこと言っているのに、ほかのこと考えないでください」 「あ、悪い。でも考えてたのはお前のことだぞ」 「それでも、ちゃんと俺を見ていてください」  不服そうに眉をひそめた藤堂はくしゃりと髪を乱すように僕の髪を撫でた。  これも普段はしない仕草だ。でも口調は既に元通りになってしまった。いつもの藤堂と少し大人びた目をする藤堂。二つの顔に僕は思わず首を傾げてしまった。 「藤堂は僕に気を遣ってるのか?」 「え? どういう意味ですか」 「いや、口調が違うから。やっぱり歳上だから?」  よくよく思い返せば、ほかの歳上の人たちにも藤堂は敬語を使う。でも二人きりでいる時くらいそういうのはなしでもいい気がするのだが、それは僕だけが思っていることなのか。 「あ、あー、それは色々と、問題があるんです」 「問題ってなに?」  敬語を使わなきゃいけない問題ってなんだ。感情的になるとうっかり出るくらいなんだから、無理して使わなくても構わないのに。藤堂は苦笑いを浮かべるばかりだ。

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