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第521話 決別 10-4
じっと藤堂の顔を見つめるとやんわりと微笑まれる。その表情を訝しく思い、首を傾げたが、僕は自分でも驚くほどの勢いで藤堂の顔を見てしまった。
「気づきました?」
「今日、今日……十四日っ」
「当たりです」
やっと気がついた。なぜあんなにも藤堂がなにもかも即決で、すぐに日程を決めてしまったのか。その理由がわかってしまった。しかしすっかり忘れてるのはやはりまずかっただろうか。ちらりと窺うように藤堂を見上げたら、さして気分を害した風でもなくにこやかに笑みを浮かべている。この笑みはどちらの意味で捉えたらいいのだろうか。
「忘れててごめん」
「いえ、いいんです。あの時は佐樹さん色々ありましたしね」
頭を下げた僕をなだめるように、藤堂は優しく頭を撫でてくれる。けれどやはり覚えていなかったのは申し訳ない気がする。というよりも、僕はなにもかも覚えていなさ過ぎだ。数ヶ月前まで五年前に藤堂に会っていたことも、再会した時のことも忘れていたのだから、いたたまれない。これ以上なにか忘れていることはないかと、思わず記憶を掘り返したくなった。
「佐樹さんお腹空きません? 途中でご飯にしませんか?」
「あ、ああ」
「ほら、そんな顔しないで、笑ってください」
「ちょっ……待ったっ」
うな垂れる僕に、にんまりと悪戯を思いついた子供のような顔をして近づいてきた藤堂は、突然人の脇腹をくすぐりだした。閑静な霊園に僕の叫び声とも笑い声ともつかない声が響き渡った。
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