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第522話 決別 11-1
藤堂と外でのんびりと食事をするのは随分と久しぶりだ。それこそ初めて出かけた時以来だろうか。動物園へ出かけた時もなんだかんだと色々あって、二人きりにはほど遠い感じになってしまったし、実家に行ったから食事もみんなで済ませた。藤堂が喜んでいたのでそれはそれでよかったのだけれど、今日はなんだか少し気持ちがいつもより浮ついてしまった。
普段まったく飲まないお酒を軽く舐める程度に飲んで、飲めないことをすぐ藤堂に悟られて、それは容易く奪い去られた。でも一口程度のアルコールならば、ちょっとテンションが普段より上がるくらいだ。ただしグラスに一杯飲みきると、さすがにすぐに酒が回るくらいの下戸でもある。
「佐樹さん本当に大丈夫です?」
「うん、平気」
気分よくへらへら笑いながら歩いていると、さすがに藤堂の顔が心配げなものに変わる。でも日が暮れた帰り道でこっそりと手を繋いで歩いて、肩寄せて笑い合うそれだけなのに、いまは本当に幸せだと思えた。
「佐樹さんのは弱いというより本当に飲めないんですね」
「一口なら平気」
「まあ、その一口で、俺は気づいてよかったと思ってますよ」
小さく息を吐いた藤堂の肩に頭をすり寄せたら、髪を梳いて頬を優しく撫でられた。それがくすぐったくて繋いだ手をぎゅっと強く握ったら、立ち止まった藤堂の唇が僕の額に触れた。
「佐樹さん、ちょっと可愛過ぎる」
「ん?」
急に真剣な顔でこちらを見下ろす藤堂に少しドキリとした。でもその表情の意味がわからなくて首を傾げたら、突然抱きすくめられた。
「ちょ、さすがにここだと」
人通りの多い道ではないので、いま誰かに見られるということはないかもしれないが、いつ人が来るかわからない。
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