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第523話 決別 11-2

 しかし慌てて身を引こうと目の前の肩を押した僕の手を取り、藤堂はその指先に口づける。 「ここじゃなかったらいいの? 俺、前にも忠告してますよね」 「え? えっと、忠告って?」  まっすぐにこちらを見つめられて、恥ずかしさを感じるのに、その視線から目をそらすことができない。そして藤堂の言う忠告という言葉を考えて思考を巡らせてみるも、心拍数が上がって若干テンパっている状況ではそれもうまくいかない。 「すみません」 「え?」 「俺が悪かったです」 「なんで?」  強く抱きしめられていた身体をいきなりそっと離されて、さらには急に謝られ、ますます頭がついていかない。しかも藤堂が悪いってなんだ。いまのこの状況をまったく理解できていない僕のほうが明らかに悪いだろう。それなのに藤堂は申し訳なさそうな顔で僕の頭を優しく撫でる。 「わかるように言ってくれないと、僕は馬鹿だからわかんないって言っただろ」 「いや、いまはまだわかってない佐樹さんに、気持ち押し付けたくない」 「だから、意味わかんないって」  俯いて顔をそらした藤堂の肩を拳で叩けば、その手をぎゅっと強く握られた。そしてこちらへ視線を戻した藤堂はなにか言いたげな目をする。 「佐樹さん、キスしてもいい?」 「……なっ」  散々、今日何度も人のふいをついてしてきたくせに、急にそんなことを確認されては恥ずかしさしかない。頬が熱くなって顔を隠したくなったが、それでもこんな風にわざわざ聞いてくるくらいだから、多分きっとなにか藤堂の中で整理したいものがあるのかもしれない。小さく頷いて見せれば、そっと両頬に藤堂の手が添えられた。

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