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第524話 決別 11-3
その温かい感触にゆっくり目を閉じれば、ふわりと至極優しく唇を寄せられる。決して深く押し入ることはせずに、何度も優しく触れるそのぬくもりに、なぜか胸が締め付けられる想いがした。
「またここになんか溜め込んでる?」
離れていく唇を視線で追い、そっと藤堂の胸元を両手のひらで触れた。
「うーん、そろそろ色々とヤバイ感じですかね」
「え? そんなにひどいのか」
「……冗談ですよ。早く帰りましょう」
一瞬、微妙な間があったが、にこりと微笑んだ藤堂に手を繋がれそれ以上のことを聞くことができず、僕は先を歩く背中を追った。
宿に戻って改めて部屋を見るとびっくりするくらい、いい部屋だと実感した。最初は本当に荷物を置いただけで出てしまったけれど、ついぐるりと部屋の中を歩き回ってしまった。
広い客間は青々とした綺麗な畳敷きで、床の間には綺麗な花が生けられていた。広いテーブルは一枚板の重厚な作りで、備えられている座椅子にはふかふかとした座布団。窓際の縁側にも揺り椅子が二脚と小さなテーブルがあった。
寝室は少し今風な仕様で洋間のツインだ。窓から見える景色は夜の闇に明かりがほのかに灯り穏やかで、いかにも温泉旅館というこの部屋で浴衣に着替えるとなおさらに気分が上がる。
さらにこの部屋で一番驚いたところは――。
「藤堂、内風呂がある。絶景だぞ」
おそらく使われているのは檜だろうか、とてもいい香りがする。小さいながらも景観が綺麗な露天風呂だ。しかしテンション高く振り返った僕とは対照的に、客間でくつろいでいたはずの藤堂は、なんだか苦いと言うか渋い顔をしていた。しかしテンション高く振り返った僕とは対照的に、客間でくつろいでいたはずの藤堂は、なんだか苦いと言うか渋い顔をしていた。
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