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第525話 決別 12-1

 今日、何度目かわからないその表情に、僕は藤堂のあとで、という言葉を思い出した。 「藤堂、あとでって言ってた話を聞いてもいいか?」  藤堂の顔色を窺いながら、そろりと四つん這いで近づいていったら、一瞬だけ藤堂がびくりと肩を跳ね上げた。その反応に目を瞬かせると、大きなため息と一緒に藤堂がうな垂れて頭を抑えた。 「やっぱり佐樹さんは、言葉や行動で示さないとわかってもらえないんですよね」 「うん?」 「俺、以前忠告したって言いましたよね。それは記憶にないですか」  記憶に? なにか言われていたことがあっただろうか。いや、いつもなにかしら色々言われているような気もして、どれがそうなのか見当がつかない。考えるように首を捻っていると、ふっと息をついた藤堂に手招きされた。  その手につられてすぐ傍まで近づき正座をしたら、藤堂はいつものように僕の髪を梳いて優しく撫でる。そしてその優しい指先がするりと流れて、耳をくすぐるように何度も撫でるものだから、思わず肩が跳ねてしまった。  でもからかっているでも、悪戯をしている風でもない藤堂の表情に、逃げ出しそうになるのをなんとか堪えた。しかしいつまで経ってもその手は離れてくれず、次第に耳元に触れていた指先は頬の輪郭を辿って下へ下へと下りていく。その感触にぼんやりとした記憶が頭の隅をよぎる。けれど僕は思わずぎゅっと目をつむってしまった。 「佐樹さん、思い出した?」  耳元に寄せられた唇から囁かれた言葉で、一気に熱が顔に集中した。でもそれがさらに目を開くタイミングを逃すことになる。

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