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第526話 決別 12-2

 首元に触れた手が浴衣の襟元から中へと滑り込む。目を閉じているせいで余計にはっきりとその感触が伝わって、異常なくらい鼓動が早くなってくる。さらに首筋に唇が触れれば、心臓が止まるかと思った。 「と、藤堂」  指先や唇で触れられる感触に、気がおかしくなりそうなくらい頭がぐるぐるとしてきた。首筋を伝っていた藤堂の唇が僕の口元に触れる。思わず反射的に応えるよう開いた僕の唇から藤堂の舌が滑り込み、僕のものを絡め取る。何度も繰り返される口づけに息が上がり、目の前の藤堂にしがみつきかけたその時、浴衣の裾を割り滑り込んだ手に素足を触れられた。胸元を触れられるよりもやけに生々しいその感触に、僕はすぐさま我に返った。  驚いて目を開けるとばちりと藤堂と目が合う。いつもとは違う情欲を感じさせるその視線に、身体がとっさに逃げてしまった。弾かれるように後ろへ下がった僕を、藤堂は無理に追いかけるようなことはせず、じっとこちらを見ている。そしてまっすぐ過ぎるその視線に耐えられなくなった僕は、逃げ出した。 「風呂行ってくる」 「内風呂に入るんじゃなかったの」 「大浴場のほうに行ってくる」  背後で微かに藤堂のため息が聞こえたけれど、タオル一式を抱えて僕は慌ただしく部屋から飛び出してしまった。ゆっくりと閉まった扉。廊下に立ち尽くした僕はその扉に背を預けて、ずるずると沈み込むようにしゃがんでしまう。まだ頬や身体が熱い。  以前、実家に泊まりに来た時にそういうことも意識するようにと言われた。その時は驚いた僕を見て、藤堂はすぐに手を引いてくれた。でもさっきのはこの前のとは違った気がする。  あのまま僕が逃げ出さなかったら? 「ヤバイ、ヤバイ、心臓がうるさ過ぎる」

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