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第527話 決別 12-3
僕がなにも考えずにあまりにも無防備に近づくから、だからあんなに藤堂は難しい顔をしていたのか。ずっと我慢していてくれたってことだよな。やはり僕がこうやって逃げ出すのがわかっていたからだろうか。逃げ出してから後悔しても遅いけど、好きな人に逃げられたり拒絶されたりするのってかなり傷つく。
「どうしよう」
前回の反応がアレだったのだから、僕が逃げ出すことは想定していたかもしれないけれど、多分きっと藤堂は傷ついたはずだ。だからと言っていまここで部屋に戻っていくのは絶対に無理だ。どんな顔して戻っていいのかさっぱりわからない。というよりも思いつかないし、いまは全然考えられない。って言うか、男同士ってどうするんだ?
触るだけ? そんなもん? 一体なにをどうしたらいいのかわからなさ過ぎる。
「いやいや、未知との遭遇過ぎる」
触られるだけでもあんなにドキドキして恥ずかしいのに、あれ以上なにをどうしたらいいんだ。藤堂の手や唇、微かに聞こえた息遣いを思い出して、顔がゆで上げられたみたいに熱くなる。
キスをする時は、時々性急だったりしてふわふわすることもあるけれど。いつもはすぐはぐらかしたりして、曖昧に笑ったりして、そんな素振りなんてあんまり見せないのに。あんな顔は反則だ。色気とかが半端なかった。
もう絶対、女の子とかだったらコロっといっちゃったりするんだろうな。いや、男の人でもちょっと危ないか。というよりそっちが危ないって片平にも言われたっけ。
「ああ、もう、無理っ」
顔を覆い俯いた僕は、これ以上ここにいてもぐるぐるして、先ほどのことを思い出してしまうばかりだと判断し、大人しく大浴場へと足を向けた。
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