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第528話 決別 13-1

 こうなることは予想できていたのだから、もう失敗したとか、馬鹿なことをやってしまったとか、なにもかも後悔してもどうにもならない。逆を言えば、あのまま逃げ出そうとしたあの人を、無理やりに引き止めて押し倒さなかっただけ偉いと自分を褒めたい。はっきり言って虚しい慰めにしかならないが、それでも理性が勝ったことだけは安堵できる。  これまでも随分我慢してきたつもりでいたけれど、さすがに二人きりで無防備に、しかも無邪気に寄ってこられると、どうしようもない気分になってくる。比較的こういうことに関して我慢強いほうだと自分でも思うが、軽く笑って過ごせるほど大人でもない。心の中では正直、色んなものがフル稼働して理性と本能が戦っているわけだ。正直それはかなり辛い。しかし、かと言っていまだよく理解をしていないあの人に対して、無理に関係を迫る気にもなれない。そもそも――。 「全力で拒否られたらさすがに立ち直れない」  しかし今回あの人が逃げ出したのは、あの様子を見る限り嫌悪とかではなくて、羞恥的なものだろうと思う。あのまま我に返らなければ、ちょっと落とせそうな雰囲気であったのも確かだ。でも一度失敗すると、次が難しいのも確かだ。 「さて、どうしたもんかな」  とりあえず本当に風呂へと行ったのならば、あの人は少なくとも一時間は帰ってこない。一緒に過ごすようになってあの人の長風呂には慣れた。ただし家では寝る癖があるので危なっかしいのだが、さすがに大浴場ではそれはないだろうと思う。そうすると一時間もかからずに帰ってくるだろうか。

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