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第529話 決別 13-2

 と言うか、帰ってくるのか心配になる。 「いや、さすがに帰ってくるだろう」  自分で考えて自分で突っ込みを入れてしまう。ここではほかに帰る場所なんてない、はずだ。  ただぼんやり待っているのもなんなので、自分も風呂に入ってしまおうと内風呂へと足を向けた。そこはあの人が絶景と言っただけのことはあり、とても趣がある。きっと露天風呂に浸かれば、静けさの中に浮かぶ柔らかい街の灯りや満天の星が見えるだろう。  熱い湯に浸かり、温まった身体がすっかり落ち着いてきた頃。静かに時を刻む時計の針が、俺はやたらと気になりだしていた。 「本気で帰ってこないつもりか」  部屋を飛び出して行ってから、かれこれ一時間半は過ぎている。しかし一向にあの人が帰ってくる気配はない。さすがにこのまま帰ってくるのを待ち続けるのは、俺の気持ち的にも限界だ。もしかしたら顔を合わせづらくなっていて、どこかで時間を潰しているだけなのかもしれないし、俺のほうから迎えに行ってあげるのがあの人にとってはいいのかもしれない。意外と意固地な部分もあるし、テンパるとなにをしでかすか正直わからないところもある。  そこはそこで可愛らしいし愛おしいと思うが、こちらは心配でたまらない。外には出ていないだろうから、宿の中を探せばいいだろう。広い宿ではあるが公衆の場は限られている。浴場や売店、レストランやカフェ、あとは大広間くらいだと思う。とりあえず一通り回ってみようと俺は部屋をあとにした。

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