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第530話 決別 13-3

 しかし予想に反して、すぐに見つかるだろうと思っていたあの人はなかなか探し出すことができなかった。 「外ってことはないよな」  宿の中にいないとなれば外しかないが、まさかそれはないだろうと慌ててフロントに声をかけてみた。丁度そこにいた相手は受付をしてくれた女性で、あの人のこともよく覚えていた。 「ああ、お連れさまでしたら多分、大広間じゃないでしょうか」 「え?」  彼女の言葉に思わず驚きをあらわにしてしまった。先ほど覗いた時にはそこにはいなかったような気がするのだが、さらに彼女は俺を驚かせる言葉を発した。その言葉に、俺は礼もそこそこに急いで大広間へと向かった。  大広間は座敷になっていて、テーブルがいくつも並び、風呂上がりに一服したり、お喋りをしていたり、売店などで買ったものを持ち寄って宴会を開いている者がいるような場所だ。確かに人は多いがそう簡単に見落とすはずはないと思っていた。けれど聞いた話に正直頭が痛くなった。 「なに考えてんだあの人は」  まさかそんなところに紛れていると誰が想像するだろうか。俺は周りも気にせずずかずかと足を進め、大広間の奥、十数人ほどで宴会を開いている大学生らしき集団に近づいた。そしてそこで俺はやっと彼を見つけた。 「佐樹さんっ、なにやってんですか」  とっさに出た声は思っている以上に大きかったらしく、一瞬だけ周りがしんとなった。 「あれ? もしかして連れの人?」  突然現れた俺にさして驚いた様子も見せず、彼の隣に座っていた男がこちらを見て笑った。明らかに不機嫌な表情を浮かべているだろう俺を見ながら、やたらと楽しげな顔をして男は彼の肩を揺する。

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