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第531話 決別 13-4

 けれどすっかり酔いつぶれているのか、彼は微かに身じろぎしただけだった。 「一人で飲んでるから誘ったんだけど、まさか潰れると思わなくてさ。部屋もわかんないしどうしよっかなぁって思ってたんだよね」  男の言葉にその場にいた全員がドッと笑い、また賑やかな雰囲気になる。どうやらこの男がこの場の中心人物のようだ。けれどそんな笑いを無視して、俺はテーブルに突っ伏して潰れきっている彼の腕を引いた。 「佐樹さん、立てる?」 「あ、れ、藤堂? んーん、無理」 「……無理って、飲めないって言ってたの誰ですか」  ぼんやりとした顔でこちらを見る目は酔いのせいか少し潤んで目元が紅い。普段とは違うその表情に胸がざわめく。身体を起こして子供みたいに両腕を伸ばしてくる彼の身体を抱き上げると、無意識なのか彼の腕が俺の首元に巻きつき、肩に額をすり寄せてきた。 「酔っ払い過ぎです」  無防備に甘えた仕草をする彼に、思わず舌打ちしそうになったのをため息で誤魔化し、やんわりと彼の腕をほどいて力の入っていない身体を支えた。 「ご迷惑おかけしました。この人は連れて行くので」 「こちらこそごめんねぇ」  西岡くん気をつけてねだの、佐樹くんまたねだの、言われてるのを背中で聞いて、無性に苛々とした気分になってきた。どこまで無防備なのだろう。これで素面だったらガチギレしているところだ。酔っ払った姿を他人に見せていること自体正直許しがたいのに、ここでどんな顔をしていたのかと思うほど腹の奥に黒いものがたまる。支えた彼の身体を引き寄せるように力を込めてしまった。

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